窃盗団アルフォークロア!

-Interlude- 奪われた隆臣

「残念だったなぁ、月読さんよ」
 泰造が月読に向かい得意げな顔をする。
「『地の宝珠』のほうは俺の手の中にあるんだ。こいつはそうやすやすとはわたさねぇ」
「……殺してでも奪い取れ」
 月読の号令が下り、周りの兵隊が一斉に銃を構えた。そして銃声。
 しかし、泰造の前には岩の壁がせりあがっていた。これも『地の宝珠』の力だ。
 そして、銃を撃つ兵士達の足元の岩盤が砕け、生じた亀裂に兵士達が次々と落ちて行く。
「やるじゃねーか」
「宝珠、使いこなしてますね」
 隆臣と圭麻がぼそぼそと話している間にも、ケリがついた。
「どうだ、思い知ったか!」
 得意げな泰造。だが、月読はそれでも不敵な笑みを浮かべる。
「それなら、それで私を倒してみるか?」
「よし、俺と勝負しやがれ!」
 月読を挑発する泰造。
「いけません!」
 止めようとする鳴女。しかし、泰造はもう戦闘態勢に入ってしまっている。
「くらえっ!」
 泰造が再び『地の宝珠』にエネルギーを送り込んだ。
 が。
 何も起こらない。
「な、なんで?」
 月読が泰造に銃を向けた。発砲。泰造はその弾を肩に食らい、宝珠を取り落とした。
「くそっ、なにがどうなってんだよ!」
「この船がなんなのか、そこの女に聞いてなかったようだな。今のはこの船に搭載された宝珠制御装置によってその『地の宝珠』の力を封じたのだ」
「んだとぉ……」
「13号。その宝珠と、お前の持っている『火の宝珠』を持って、こっちに来るのだ」
 隆臣は頷いた。が、行動はしない。
「その前に、伽耶を返すと言う約束は忘れてはいないだろうな」
 隆臣の言葉に月読は頷く。
「貴様は信用できない。どうせ、この船に伽耶もいるんだろう。先に伽耶を渡せ」
「その前にそこに落ちた宝珠を拾え。伽耶に会わせるのはそれからだ」
 隆臣が『地の宝珠』を拾い、月読に向き直る。
「これでいいのか」
「伽耶、出てこい」
 月読に言われて伽耶が顔を出した。不安げに隆臣と、圭麻、結姫の顔を見渡す。
「お前達は私が信用できないようだからな。先に伽耶を返してやろう。その代わり13号、お前が私の信頼を裏切るようなら……お前の友達は伽耶諸共消え去ることになる」
「てめぇ、自分の娘を……」
「誤解をするな13号。お前が信頼を裏切らなければ何も起こらない」
「わかった」
 伽耶が圭麻達の方に駆けて行ったのを確認し、隆臣も月読のほうに歩きだした。
 そして、月読に宝珠を手渡そうとしたその瞬間。
 隆臣と月読の姿は、共に瞬時に消失した。

「なにをした!?」
 隆臣は目の前の月読に向かって叫んだ。周りの景色がさっきとはまるで変わっている。狭い部屋の中だ。しかも、ただの部屋ではない。
「私の船の中に招待したまでだ。このまま、本物の伽耶にも会わせてやるぞ」
「!?本物だと……!それじゃあの伽耶は……貴様、やはり騙してたのか!」
 隆臣は月読に襲いかかろうとするが、見えない壁に阻まれ、目の前の月読にそれ以上近づくこともできない。
「夜も深まったことだ。彼らには花火でも楽しんでもらうことにしよう」
 月読はそう言い残し、姿を消した。

 飛び去る『天の宝珠』号を呆然と眺めていた圭麻の胸に、伽耶が飛びこんできた。
 それを、やさしく抱き留める圭麻。
 が。
 不意に圭麻が伽耶を強く突き飛ばした。
「圭麻!?何を……」
 結姫が驚いて圭麻に近づこうとする。
「みんな、逃げて!」
 圭麻が怒鳴った。結姫も、わけが分からず圭麻の言うとおりに逃げる。が、肝心の圭麻は先程つった足がまだ痛むためか逃げられない。そして。
 突き飛ばされた伽耶が、轟音とともに爆発した。凄まじい爆風が結姫達を弾き飛ばす。
 爆風も、轟音も全てが終わった。辺りは砂ぼこりが漂っている。
「圭麻っ!」
 結姫が、今圭麻が立っていた場所に駆け寄った。
 圭麻はそこに立っていた。
「だ、大丈夫なの?」
「はい、どうにか」
 細かいかすり傷が全身についていたが、それでも圭麻は無事だった。
「よかった……」
 泣き出す結姫。
「今の、月読の娘だろう?あの野郎、まさか自分の娘に爆弾を背負わせて……」
 顔をしかめて呟く颯太に、圭麻が足元に落ちていた『伽耶』の腕を拾って差し出した。
「だあっ、俺はそういうのに弱いんだって……」
 一瞬引く颯太。
「ん?」
 圭麻が何を言いたいのかが分かったらしい。その『伽耶』の腕は、どう見ても機械だった。
「ダミー……か」
「あいつに、してやられたってことですよ」
 圭麻がそうぼやきながら近くの石に腰をおろした。
「あたしたち……結局、月読の思うがままだったんだ……。伽耶も取り返せなかったし、宝珠も取られちゃった。隆臣まで……もう、馬鹿みたい……」
 絞り出すような声で呟く結姫の目からは止めどなく涙が零れ落ちてくる。
「諦めるのはまだ早いです。月読は宝珠を揃えていません。……ですよね」
 鳴女がそう言い、圭麻のほうに目を向けた。
「……気づいてたってわけですか……」
 圭麻がポケットから取り出したのは、紛れもない『風の宝珠』だった。
「な……、ど、どう言うこと!?」
 結姫が驚いて圭麻に詰め寄る。
「いや、実は『風の宝珠』を手にいれたあと、何かの役に立つかなーと思って『風の宝珠』のレプリカを作ってみたんですが……あまりにもいいできだったんで試しに月読に渡してみたんです」
「おいおい……もしかして、月読それに気づいてないんじゃないのか!?」
 颯太も圭麻に詰め寄る。
「多分」
 お茶目な笑みを浮かべる圭麻。
「とっさとはいえ、やっぱり2回も宝珠の力を使ったのはまずかったかもしれませんね」
 そう、圭麻はこの宝珠の力を利用していたのだ。
 今、伽耶のダミーが爆発した爆風から身を守るためと、真苗の操る炎を吹き飛ばすために。
「それ以前に、あなたがたの情報を集めるペースがだいぶあがったと聞いた時にピンと来ました。『風の宝珠』には『風の噂』を集める力もありますから」
 圭麻がこのところやけに情報が早かったのはその所為のようだ。
「とにかく、『風の宝珠』はここにあります。月読がなんのために宝珠を揃えようとしていたのかは知りません。ただ、本当に全てを揃えなければならなかったのなら……」
「まだチャンスはあるんだ!」
 結姫に笑顔が戻った。

#5 奪還編・社の逆襲


「なんだよおぉぉぉ」
 突然、那智が喚きはじめた。
「隆臣〜、俺をおいてどこに行っちまったんだよぅ〜。月読のバカバカバカバカ〜!俺の隆臣を返せ〜っ」
 号泣する那智。
「隆臣はあたしのだもんっ」
 那智につられて泣き出す結姫。
「圭麻っ、隆臣を……隆臣を取り返そうよ」
「そうですね。このまま引き下がる気はありません。隆臣も、伽耶も絶対に取り返します」
「俺も協力する!絶対隆臣を助けだそう、なっ!」
 いきなり窃盗団に寝返る那智。
「お、おい那智っ!てめー、窃盗団に寝返ってんじゃねー!」
 青筋を立てながら泰造が叫ぶ。
「……本当に隆臣に会えりゃなんでもいいんだな……」
 呆れ顔その颯太。
「だってよ〜、泰造達にくっついてるよりこっちについた方が絶対隆臣と話しやすいって」
「……那智がいると隆臣がよってこないような気がするんですが」
「なんでだよおおぉぉぉ」
 圭麻の呟きを那智が聞き咎めた。今までの様子を見るとそのような気もするが。
「いずれにせよ、月読は阻止しなければなりません。彼を月読がわざわざ連れて行ったのには訳があるのです」
 鳴女が難しい顔で口をはさんできた。
「おそらく彼は闇の力を受け入れるレセプターの適合者です」
「あっ、隆臣が何かの適合者だって言うのは聞かされたことがある」
 結姫は隆臣の思い出話でそんな話を聞いている。
「つまり……月読は『光の宝珠』と『闇の宝珠』の封印を解き、『闇の宝珠』を使い彼に闇のエネルギーを送り込み……それによりどうなるのかは彼しだいです。ただ、より凶悪な存在となるでしょう。欲の深いものがそうなれば、世界を滅ぼしかねません」
「隆臣はそんなことしないもん!」
 泣きそうな顔で結姫が叫んだ。
「……隆臣って泥棒だし、欲は深いと思いますよ」
 もっともなことを圭麻がぼそっと呟く。結姫が固まった。
「とにかく、そうなる前に月読の手から彼と宝珠を奪いとらなければなりません。そして……今は多くを語れませんが、月読の手は結姫、あなたにも必ずや伸びるでしょう」
「なぜ、結姫が?」
 圭麻が鳴女に問う。鳴女は小さく首を横に振った。
「今は多くを語れません。しかし……風の宝珠と、結姫がこちらにある以上、月読はなにもできないのです」
「つまり、俺達にこの少女を守れ、と?」
 颯太の言葉に鳴女が頷いた。
「雇い主の命令は絶対ですからね、嫌とはいいませんよ」
 まだちょっと気乗りしないような顔で泰造。
「結姫。私達に協力してくれますか?」
「隆臣を取り返せるなら……」
 鳴女の言葉にそう言い返す結姫の瞳には固い決意が表れている。
 結姫と圭麻。二人きりになった窃盗団アルフォークロアはハンター達とともに立ち上がった。
 月読の手から、宝珠を開放するために。

「あたしも行くーっ!行くのーっ!」
 モールマインの町まで戻った結姫達が、颯太のおまけの藍を置いて行こうとしたのだが、藍がすごい剣幕で騒ぎ出した。
「でも……ママが心配するよ?」
 結姫が藍の視線と同じ視線の高さで話しかけた。
「あたしのママはここにいるもん!」
 と、颯太に言う藍。
「俺、男なんだけど……」
 泣きたい気分の颯太。
「めんどくせー、連れてけばいいじゃねーか。任せたぞ、颯太ママ」
「待てよ……」
 泰造は決めつけてしまう。嬉しそうな藍。
「お似合いだな、颯太」
「何を言うんだよ」
「知らないっ」
 なぜか機嫌の悪い那智。
「懐くなよ、藍……。なんでこんなことになっちゃったんだろうな……」
「だめですよ、子供は親の愛情が足りないと心が健全に成長しませんよ」
 圭麻がとどめを刺した。
 完全に藍のお守り役が颯太に決まったその時だった。
「やっと見つけたぞ、この泥棒め!」
 野太い声が聞こえてきた。その声のほうに視線を向けると、目の細いオヤジが怒りに満ちた表情で結姫達を睨みつけていた。
「あっ!お前は……!」
 そう言いかけ、那智に視線を向ける泰造。那智は首を横に振る。泰造は一通り顔を見渡すが、皆一様に首を横に振った。
「誰だっけ?」
「だーっ、忘れたとは言わせ……言ってるんだよな。私は、お前達に大事なコレクションを二つも盗まれた銭湯富豪の社だっ!」
「そうか、お前は……思い出せない……わりぃ、完全に忘れてるみたいだ」
 頭を抱える泰造。
「ほら、『聖なるオケ』のあった銭湯の番台のオヤジですよ」
「ああ、いたかもしれない」
 圭麻のアドバイスで少し思い出しかけたようだ。だが、社はあいかわらず機嫌が悪い。
「ちくしょう、寄ってたかって忘れやがって」
「忘れてたのは泰造だけですが」
 圭麻がフォローする。
「そうよ、ねっ」
 自分も忘れていたとは言い出せない結姫。
「そうだっ、俺なんか初めから知らないぞ!」
 那智は論外。顔は確かに見たはずなのだが。
「ええい、そんなことはどうでもいい。とにかく、私のコレクションを盗み出した礼はたんとくれてやる!これを見ろ!」
 社の背後から機械音が起こった。そして、8本のダクトが複雑に絡み合ったあやしげなマシンが姿を現した。
「『山田製作所の山田のサウナ』の餌にしてくれるわ!」
 マシンは餌は食わないと思う。
「な、なんだそれは!サウナの熱風の発生装置じゃないか!」
 颯太が訝しげな顔をした。
「ふふふ、銭湯のメカは戦闘のメカでもあるのだ!さぁ、やってしまえ、山田のサウナよ!」
 言いながら自分で機械を操作する社。
 山田のサウナのボイラーが点火し、次いでダクトが一斉に結姫達のほうに向き、そこからものすごい勢いで熱蒸気が噴出された。
「きゃあっ!」
「あちちちち!」
「こ、これはお肌にわるいっ!」
 ひとまず退く結姫達。だが、山田のサウナは移動用のキャタピラーで追ってくる。
「これでどうだ!」
 圭麻が『風の宝珠』の力を解放した。山田のサウナは逆風に吹かれ、吹き出す蒸気がすべて後ろに流れてしまう。後ろにいた社がその蒸気を被った。
「ぐああっ、あぢぢぢぢぢぢ」
「よし、いいぞ!」
「おのれ……!こうなったら出力最大だ!」
 出力をあげると、ボイラーは魔獣の如く吼え、ダクトは蒸気の圧力でヘビの様にのたうち、排気口から吹き出しきれない煤煙がそこかしこのつぎ目から吹き出した。
「くっ、暴走したか!?」
 もはや、山田のサウナは社の制御を離れ、無秩序に動いている。
「よし、ならばこのまま奴らに突っ込め!」
 社はレバーを操作し、山田のサウナを結姫達のほうに進ませた。吹き出す蒸気などのショックでふらふらとはしているものの、確実の結姫達のほうに突っ込んでくる。
「来んな、うらうら」
 山田のサウナの動きを棒で止める泰造。
「躱すと言う概念がないあたり泰造と似てるな」
 泰造の手が塞がった所で颯太がぼそっと呟く。
「結構馬鹿力ありやがるな、こいつ……。腕が疲れてきたぞ」
 山田のサウナと力くらべをしていた泰造だが、相手は機械だ。疲れることもなく押しつづける山田のサウナに泰造が押されはじめた。
「圭麻っ、その『風の宝珠』の力であれをふっ飛ばすとかできないのかよ!?」
 見かねた那智が圭麻に提案した。
「うーん、泰造もふっ飛んじゃいます」
「いいから!」
「い、いいんですか?」
「あー、もう、貸せよ!」
 那智が圭麻の手から宝珠を奪いとった。そして、宝珠に自分の精神エネルギーを注入する。
「だああぁ、よせええぇぇぇ!」
 泰造の叫びが虚しく響く。そして、激しい風が吹き抜けた。
 舞い上がった砂ぼこりがおさまると、そこには山田のサウナだけが残されていた。
「泰造〜!」
 那智が自分でやっておきながら悲痛な叫びを上げた。
「泰造さん……いい人だったのに……」
 鳴女が泣いた。
「まずいぞ、つっかえ棒が無くなって向かってくる!」
 叫ぶ颯太。泰造はつっかえ棒扱いになった。
 が、山田のサウナは、バスンと最後の蒸気をあげるとそのまま動かなくなった。煤煙だけは間断なく登り続けている。
「……なんだ?」
 首をかしげる颯太。煤煙があがっているのだから燃料切れではない。
「み、水がなくなってる……。バカな!満タンにすれば丸一日稼働するのに!い、いかん空焚きはまずい……!」
 社が逃げ出した。
「くそっ、お前らには絶対に復讐してやるぞ!」
 そう言いながら、社は茂みに隠しておいた乗り物にまたがって飛び去っていく。
「!?あれは……ゼウグ!」
 結姫と圭麻が声をそろえて叫ぶ。
「なんだ、知っているのか!?」
 颯太に聞かれ頷く圭麻。
「あれは……月読の部下達が使っている水陸両用のエアバイク『ゼウグ』です」
「あいつが……なんでゼウグに乗ってるの!?まさか、あいつ……月読の……」
 走り去る社のゼウグを睨みつけながら結姫が呟いた。
「それどころじゃないぞ!何か様子が変だ!」
 那智の声に、全員の視線が山田のサウナに集まる。どす黒い煙を上げながら、がたがたと小刻みに震えている。
「やばそうですね……。逃げたほうがいいでしょう」
 圭麻に言われ、一斉に逃げ出す結姫達。
 山田のサウナがぶわっとどす黒い煙を吐いた。そして。
 ドォン!
 けたたましい音とともに、山田のサウナは飛び散った。破片が結姫達をかすめる。だが、どうにか無事逃げることができた。
「とりあえず、みんな無事だね」
 結姫が見渡しながら言った。
「那智っ、てめー!」
 どこに飛ばされていたのか、泰造が戻ってきた。なぜか頭に藍が乗っている。
「ら、藍!?なんでそんな所に!?」
「そういえば、さっきから姿が見えなかったな……ずっとどこにいたんだ?」
 那智と颯太が驚いたように藍に詰め寄った。泰造は話題にも上がらなかった。
「もしかして、俺の起こした風でふっ飛んだのか?」
 ぼそっと那智が呟いた。
「俺が落っこちた所に上から降ってきたぞ」
 ということはやはり、同じ風でふっ飛んだようだ。言いながら泰造は颯太に藍を返した。
「な、なんでこんなにぐっしょり濡れてんだ?藍……」
 頭に乗られて初めてそれに気付く颯太。
「カーボンヘッドちゃんがご飯食べてたら水がいっぱい出てきたの……」
「それってもしかして……」
「山田のサウナの貯水タンク食い破ったのか……。それで空焚きしたんだな」
 結局、山田のサウナを撃破したのは藍のお手柄だった。

 逃げた社を追い、『社の湯モールマイン店』を目指す結姫達。
 その目に、妙な物が見えてきた。
「なに、あれ……」
 結姫が圭麻に訊いた。
「おそらく……飛行船でしょうけど……」
 圭麻も自信がなさそうだ。何せ、デザインが極めつけに悪趣味なのだ。
「飛ぶのか、あれ」
 那智が興味津々といった顔で見ている。
「飛行船にシャチホコなんてきいたことないぞ……」
 颯太がうんざりと言った顔で呟いた。
「すっげー、あのシャチホコ売ったらすごい金になりそうだな〜」
「お前……盗む気じゃなないだろうな……」
 目を輝かしている泰造に颯太がチェックを入れた。
「別に俺達はいいですけど。なれてますし」
 圭麻の言葉に葛藤しはじめる泰造。
 その時、飛行船が動きはじめた。
「あっ、逃げる気みたいだよ!?」
「まいりましたね……。飛ばれたら追えませんよ」
「そうだ、ビンガで追いかけよう!」
 結姫が肩に乗っていたビンガを大きくした。
「よしっ」
 一斉にビンガに乗ろうとする。ビンガはつぶれた。
「ま、待ってよ。ビンガには3人までしか乗れないよぉ」
 目を回しているビンガの前に立ちふさがりながら結姫が叫んだ。
 結姫がいないとビンガは言うことを聞かない。そのため、結姫を除いて乗れるのは二人だけだ。
 ひとまず、泰造と圭麻が先行侵入し、次いで颯太と那智、最後に鳴女と藍を送り込む、ということになった。
 早速泰造と圭麻はビンガの背に乗った。そして、舞い上がる。
 社の飛行船はゆったりとしたスピードで飛んでいる。ビンガは悠々と追いついた。
「どこから侵入するんだ?」
 泰造は飛行船の外側を見渡した。窓はあるが、下向きの窓が多く侵入にはむかない。
「窓から入るのがいいと思いますよ。俺が先に侵入してロープを垂らします」
「侵入って、どうやるんだよ」
「結姫、あの窓の下にビンガをつけてください」
 結姫は言われた通り、窓の下にビンガをつけさせた。窓は曇り、中は見えない。
「妙だな……。普通飛行船の窓ってのは外が見えるようになっているはずだ」
「とにかく、この窓から外は見えません。こちらにも気付かないでしょう、中に誰かいたら……その時はその時です」
 圭麻はポケットから小さな銃のようなものを取り出し、窓ガラス目がけて撃った。なかからはおもりつきのワイヤーがするすると飛び出し、窓ガラスを突き破った。圭麻がそのワイヤーを引っ張るとどこかに引っかかったらしく確かな手応えがあった。
「便利なもの持ってるんだな」
「ほんと。いつの間に用意したの、そんなの」
「合間を見て作ったんです。他にもいろいろありますよ」
 うれしそうな顔をする圭麻。
「このワイヤーを登って行けば中に侵入できます。泰造、一番乗りが好きそうなので行っていいですよ」
「おっ、やったぁ」
 何があるから分からないから先に行かされたのだということに気づかず単純に喜ぶ泰造。
「よしっ、誰もいねーぞ」
 泰造の声を聞いて圭麻も登り出す。
「じゃ、気をつけてね」
 結姫は他の仲間を連れてくるために飛び去っていく。
「げっ、な、なんだここは!」
 泰造の声がした。圭麻はものすごい不安感に襲われた。
 後戻りはできない。仕方なく登った圭麻はそこで信じられない光景を目にすることになる。
「こ、これは……!」
 ワイヤーを登り終え、飛行船内に潜入した圭麻は思わず目を疑った。
 室内は白く煙っていた。生暖かい湿った空気、そして石けんの香り。
 そこにあったのは、お風呂だった。しかも、大浴場。幸い誰も入っていなかった。特に社が入っていなくてよかった。オヤジの裸は願い下げだ。
「さ、さすがは銭湯オヤジの飛行船だな……」
 泰造も予期せぬ事態に戸惑っている。
「とりあえずあたりの様子を窺いましょう。それから、他の仲間が来るのを待たないとなりません。単独行動は危険ですからね」
 一人でどこまでも突っ込んでいきそうな泰造を牽制するために圭麻が提案する。
「そうだな。よし、ちょっとあたりを窺ってくる」
 泰造は浴室から出ていった。

「行っちゃやだ!行っちゃやだよぉ」
 颯太にしがみついたまま、離そうとしない藍。
「……どうする、俺、後から行こうか?」
 那智がため息混じりに言う。
「そうだな……。悪い」
 しぶしぶ、颯太は藍と一緒に行くことにした。
「まったく、まだ何があるか分からないのに……」

「あのぶらさがっているのがそうだな」
 颯太は飛行船からぶらさがっているワイヤーに登り出した。
 そして、飛行船に侵入する。
「……何やってんだ、お前ら」
 泰造と圭麻を見て怪訝な顔をする颯太。
「おう、いい湯だぞ」
「広々としたお風呂はいいですね」
 泰造と圭麻はのんびりと風呂につかっていた。
「那智が来る前に出ないと」
「那智はまだ来ないぞ。藍が俺と来たいって言うから俺と一緒に来たのは藍だ」
 立ち上がろうとする圭麻に、颯太が言った。
「な〜んだ、ちびっ子か。じゃ、もう少しつかってるか」
 ふいー、と泰造と圭麻は気持ちよさそうに一息ついた。

 那智がワイヤーを登り出した。
 あとは鳴女と結姫が登れば全員そろうことになる。
 那智は、ワイヤーを登り切り飛行船に侵入した。
「うわあああっ!」
「ぎゃあああああっ!」
「し、しまった!迂闊だった!」
 突然、飛行船の中から男たちの悲鳴があがった。
「な、何!?」
「どうしたんでしょうか……!」
 居ても立ってもいられなくなった鳴女がワイヤーを大急ぎで登り出す。
「だめだ、来ちゃいけない!」
 那智が窓から身を乗り出しながら叫んだ。
「何があったんですか……!?今、今行きますっ」
 鳴女は那智の制止も聞かず登り出そうとする。
「えーっと、あ。もう大丈夫みたい」
 那智が道を開けた。
 鳴女、続いて結姫も入ってくる。ビンガも小さくなって窓から飛び込んできた。
「……何ここ。お風呂?」
 怪訝な顔をしながら先に進もうとする鳴女の前に、那智が立ちはだかる。
「まだ脱衣場にはいかない方が……」
 那智は苦笑いを浮かべている。
「そ、そうですね……」
 事情は理解したらしい。
「何やってんのよ……」
 結姫は頭を押さえた。

「悪い、待ってたつもりが逆に待たせちまった」
 さっぱりした顔で頭から湯気を立ち上らせている男3人プラス藍と合流した女3人。
「信じらんない!レディが3人あとから来るってのに何やってんのよ!」
 返す言葉もない男三人。
「と、とにかく行きましょうか。はは、はははは」
 お茶を濁そうとする圭麻。
「ちょっと待ってよ!あんた達、先に来たからって自分達だけお風呂つかって!あたしたちはだめだって言うの!?」
 怒りに満ちた声で叫ぶ結姫だが、ただ単にお風呂に入りたいようだ。
「……。解った、ここは俺達3人で行くよ。ゆっくりつかっててくれ。その代わり社が入ってきても知らないぞ」
「わーいっ」
 態度が180度変わる結姫だった。

 男3人で行こうとする圭麻達。
「ママ、置いてっちゃやだぁ」
 藍がまた颯太ママにすがりついた。
「あのなぁ、危険だから那智と一緒にいてくれよ」
 ほとほと困り果てる颯太。
「藍、一緒にお風呂入ろうぜっ」
「うんっ」
 那智が言うと今度は素直に置いて行かれてくれた。颯太はお風呂に負けたのだ。
「よし、社を探し出して月読の情報を引き出すんだ。手分けして探したい所だが、何かあった時のために固まって行動することにしよう。どうせ狭い船だしな」
 颯太の提案に則り、圭麻達はまず廊下を一巡りしてみることにした。
 あるのはコックピット、船室、ボイラー室、侵入した『大浴場・梅の湯』、『クアルーム・バンブー』、そして『豪華絢爛黄金浴場松の湯』。
 まず、コックピットを覗いてみた。しかし、自動航行になっていてもぬけの殻だ。ついで船室を覗くが、人気はなかった。ボイラー室も同様だ。
「残るは浴室だけですね」
 圭麻の言葉に颯太が頷いた。そんな二人に向けて泰造がぼそっと呟く。
「覚悟はいいか」
「あんなやつ、覚悟するまでもないでしょう」
「いや、風呂に入っているなら素っ裸だぞ。あのオヤジ」
「……だ、大丈夫です。多分」
 動揺する圭麻。
「いざとなったら俺は逃げる」
 颯太は逃げ腰になった。
「女性陣を置いてきて本当によかった……」
「よし。じゃ、突っ込むぞ!」
 『クアルーム・バンブー』に突っ込む泰造。
 湯気がもうもうと立ちこめている。人の気配はない。
「次はここだな、『大浴場・梅の湯』」
 泰造が腕まくりし、突入の体勢に入る。
「ここを覗くのは相当な覚悟がいりますよ」
「って言うか、ここは今那智達がつかってるところだって。お前、物覚え悪いなー……」
 本当にすっかり忘れている泰造に颯太が呆れ返る。
「あ、あぶねー!止めてくれてサンキュ」
 二人に礼を言う泰造だが、はっきりと止めたのは颯太だけだ。
 残っているのは『豪華絢爛黄金浴場松の湯』だけである。
 泰造達は、乱暴にドアを開けると浴室に突入した。
「だ、だ、誰だっ!」
 確かにそこには社がいた。
 が。
「こ……これは……!」
「ひ、ひどい……」
「げーっ、ぎらぎらの悪趣味風呂だっ!」
 社よりも浴室の内装のほうが気になって仕方ない3人。
「むむむ、貴様ら、何故この温泉紀行エアシップ『豪華絢爛湯船伝説タオナ3号』に!?」
「……名前あったのか、この飛行船……」
 妙な顔をする颯太。しかも何かのツアーみたいなネーミングである。
「てめー、月読とどういう関係だ!?吐きやがれ!!」
 泰造が社にさっき倉庫で見つけて来た鉄パイプを突きつけた。逃げようと後じさり、追い詰められる社。
「ま、まて!立つな!俺はそんなもの見たくはない!」
 颯太が叫ぶ。
「おとなしく質問に答えないと、ボイラーの火力をあげるぞ」
 泰造が社を脅迫する。
「……ふん。それで追い詰めたつもりなのか。バカめ!」
 社は不敵な笑みを浮かべると、壁に据えつけられたお湯を吐きだしつづける月読のレリーフの口に手を突っ込んだ。引っ張ると取っ手のついた鎖が出てきた。
「!?トラップか!」
 圭麻が警戒するように言う。
 ぎぎぎぎぎぎぎ。
 どこかで何かが動く物音がした。
 ガコン。
 突然、浴槽の底が抜け、社がお湯もろとも下に流れていった。
「ま、まさか自分のしかけた罠に自分で引っかかった……ってなことはないよな」
 泰造は下を覗きこんだ。見ると、下にはゼウグが置いてあり、社はそれに跨がっていた。
「ああっ、野郎、逃げる気か!」
 泰造が息巻いて飛び降りた。だが、それと入れ違いに社のゼウグは発進し、宙に躍り出た。圭麻と颯太も泰造を追い下の駐機場へと飛び降り、社の行方を目で追った。
 いつの間にか、下は大海原だった。ゼウグは海上に着水し、水しぶきをあげながらタオナ3号の進路から外れていく。
「あいつ……、逃げやがった!……しかも全裸で……」
 悔しそうに呟く泰造。
「この後、どうするつもりなんでしょうね……全裸で……」
 圭麻たちは深く考えるのはやめることにした。

「誰か、誰か来てくれ!」
 突然、那智の切羽詰まったような叫び声が船内に轟いた。
 慌てて声のした方に向かう泰造たち。
 那智がバスタオルを巻いた姿で浴室の入り口から顔をのぞかせていた。
「なぁ、今下に落っこちてったの、社だろ?」
 那智の言葉に頷く颯太。目のやり場に困っている。
「それよりさ、中が大変なんだ」
「何があったんだ、一体」
 おたおたしている颯太に変わって泰造が事情を聞いた。
「いや、お湯がぬるくってさ」
「……我慢しろよ」
「ただ事じゃないぬるさなんだよ〜。みんな湯冷めしちゃうからあったかいお湯にもう一度つかりたいって。だから、頼んだぞぉ」
 那智はそういうと、引っ込んでしまった。
「……ボイラー室に急ぎましょう。放っとくと後がうるさそうですし」
 男たちは一斉に深々と溜め息をついた。

 ボイラー室の扉を開けた瞬間、すさまじい量の蒸気が吹き出してきた。
「うわ、なんだこれ!」
 思わず後じさる圭麻だが、それでもあっという間に湯気に包まれて見えなくなってしまう。
「お、おい、大丈夫か!?」
「大丈夫です。それにしても……何がなんだか見えませんよ」
 もっともだ。現に、目の前にいるはずの圭麻の姿も見えない。
 圭麻はどうにか湯気のとどかないところまでくると、湯気にむせた。
「はー、これを調べろって?無茶言うなぁ」
 泰造はほとほと困り果てていたが、ふと、何かに思い当たったように手を叩いた。
「そうだ!『風の宝珠』でふっ飛ばしちまえ。そうすりゃこんな湯気、なくなっちまうぞ!」
「なるほど、そうですね……あれ?」
 ポケットをまさぐっていた圭麻だが。
「ああああっ、しまった、『風の宝珠』はさっき那智に取られてそのまんまだ!」
「なにぃ!?なんであいつが『風の宝珠』を持ってるんだよ!」
「さっき、山田のサウナと戦った時に泰造をふっ飛ばして……」
「……思い出したら腹が減って……じゃない、腹が立ってきたぞ。とにかく、那智に『風の宝珠』を貸してもらわないとダメか」
 しかたなく、梅の湯に戻る泰造たち。
「おーい、那智ー」
 泰造がでかいを声を出した。
「なんだよー。お湯、ぬるいままじゃんか。何やってんだよ」
「それどころじゃねーんだよ。ちょっと風の宝珠借りるぞ。どこにあるんだ、出せーっ」
「あー、借りたままかぁ、忘れてた。ごめんよぉ。脱いである服のどこかに入ってるから探して持ってってー」
「……だそうだ」
 なぜか、泰造は颯太に視線を向けた。
「そうか……なんで俺のほう見てんだよ」
「分かってるじゃないですか」
「な、何が分かってるんだよっ」
 この様子だと、颯太はいやな予感が確信にかわったようだ。
「『風の宝珠』は頼んだぞ。颯太をおいて他に頼める奴はいないからな」
「何でだよ」
「さ、はやくはやく。お願いしましたよ」
 颯太は押し切られた。
「ったく……こういう役はいつも俺だ……」
 愚痴りながら、脱衣かごの衣類を持ちあげる颯太。ポケットなどをごそごそと漁っているが、それらしいものはなかなか見つからないようだ。
 颯太は次につまみあげたものが下着だと気づき慌てて脱衣かごに戻した。
「あ、あのっ……!」
 ドアを細めに開けて覗いた鳴女が慌てながらいった。
「それ、私の……なんですけど……」
「颯太てめー、何てことしやがる!」
 泰造が颯太を思いっきり引っぱたいた。

 すったもんだはあったが、那智の服のポケットから『風の宝珠』をどうにか見つけることができ、ボイラー室に戻った男3人。状況はさっきとあまり変わっていない。
「じゃ、いきますよ」
 圭麻が『風の宝珠』を使い、風を巻き起こした。湯気が吹き飛びボイラーが見えるようになった。
「ここから蒸気がもれてるんだな」
「一度、ボイラーを停めてください。そうしないと落ち着いて直せないし」
 泰造はバルブを閉じ、ボイラーを停めた。
「みろ、このパイプが腐食してるんだ。だから蒸気がもれてたみたいだな」
 確かに、パイプの一本に小さな穴があいている。
「これ、俺の持ってるパイプと同じじゃないか。よし、これに交換しようぜ」
 泰造の持っていたパイプを受け取り、手際よく交換する圭麻。
「よし、これでもう一度動かしてみよう」
 颯太の目くばせを受け、泰造はバルブを開いた。シューッ、という音はしたが今度は蒸気はもれない。
「とりあえず、ボイラーのもれは直りましたね」
「おーい、大変だー!」
 また那智が呼んだ。
「どうした!」
「今度はお湯が熱すぎるぞぉ」
 颯太の呼びかけに那智が答えた。
「てめーわがまま言ってんじゃねー!」
 泰造が怒鳴る。
「だってぇ、やけどしちゃうじゃんかよー!」
「まぁまぁ、火力を落としてやればいいんですよ」
 圭麻が苦笑しながら火力調節弁を操作した。そのついでに、何気にボイラーの中を覗きこむ圭麻だったが。
「ちょ、ちょっと!これ……」
「ん?なんかあったのか!?」
 泰造と颯太が駆け寄ってくる。そして、二人もボイラーの中をのぞき込んで驚きの声をもらした。
「こ、これは『火の宝珠』じゃないか!なんでこんなところに!?」
 社は、何とこのお風呂飛行船に『火の宝珠』を使っていたのだ。

 いい湯かげんの湯にとっぷりとつかった結姫たちがようやく長い風呂から上がってきた。結姫たちは今までのいきさつを聞かされた。
「じゃ、『水の宝珠』と『地の宝珠』もどこかで取り返せるのかな……」
 少し希望が見えてきた。
 が、圭麻は難しい顔をしている。
「気になる点がいくつかあるんですが……。なぜ、月読はこんな下らない目的に『火の宝珠』を使わせたのでしょうか?それに、大切な『火の宝珠』を置き去りにして社は逃げたのでしょうか?」
 圭麻の言葉に颯太が頷く。
「なるほど、確かに気になるな。月読が『火の宝珠』を奪って行ったのはほんのついさっきだ。それなのにもう手放している」
「この船、社の持ち物だというのも気になるよな。もしかしたらこの船での俺達の行動、監視されていたかもしれない。俺達がこの船に侵入してくるのも予想済みだったのかもしれないぞ。だからこそ、社はあの逃げ場のある風呂につかっていたのかもしれないし、この船が海の上に出ていたのも計算通りなのかもしれない」
「なるほど」
「待てよ。俺達の行動が見張られたってことは……」
 那智が恐る恐る呟く。
「やだぁ、もしかしてあたしたちのお風呂も覗き放題だったってことぉ!?」
 結姫の発言を皮切りに色めき立つ女性陣。まじめな議論をしていた男性陣の腰は砕けた。
「いや、まぁそれも問題なんでしょうけど、問題なのは俺が『風の宝珠』を使ってしまったことです。これが監視されていたなら、完全に『風の宝珠』のトリックがばれてしまう」
 圭麻が珍しく議論を真面目な方に戻した。
「それに、これで社は俺達に飛行船という移動手段をも与えてしまったことになる。これは単純に考えればとんでもない失点だが……」
「そうか、もしかしたら俺達は誘われてるかも知れねーんだな、月読の野郎に!……上等じゃねーか、誘われてやろうぜ!それでもあいつの思い通りには絶対になってやらねー!」
 颯太の言葉を受け、泰造が息巻いた。
「そうですね。私たちにできることは宝珠と伽耶さん、そして隆臣さんを取り返すことだけです」
 鳴女の言葉で、彼らの進路が決まった。
「ついでによ、月読もぶっ飛ばしてやろうぜ!俺はあいつにぶっ殺されそうになったんだ」
 鼻息の荒い泰造。
「いずれにせよ、目的のためには月読との対決は避けられません。……気がはやるのは分かりますが、時間をもらえませんか。万全の態勢で月読に挑むために、この船を改造します」
 圭麻の提案に異議はなかった。

 町の近くの平地に『豪華絢爛湯船伝説タオナ3号』が降り立った。
「でも、そんなに改造するところなんてあるのかな……」
 呟きながら降りた結姫だったが、その姿を振り返った時に自分たちに課せられた厳しい現実が結姫たちの心を打ち砕いた。
「……しゃちほこ……」
 忘れていた現実を思い出し、衝撃のあまり蒼白になる那智。
「け、圭麻……まずは、外見を!外見をもっとましにしてえぇぇ!」
 結姫が涙目で圭麻に訴えた。

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