役立たずスキルが化けました

非武装の男・手工業の章


 鉄板を買ってきた。目的はもちろん、ビキニメイルとやらのためだ。
 職人時代には振り回されてしまったスキルだが、今はそのスキルとのつきあい方もわかっていると自負している。工作にもスキルを活用していこう。なお、今回は練習がてらなのでうまく行くだなんて思ってはいない。
 まずは設計図を描いてみるが、早速問題が発生。サラちゃんの体のサイズがよくわからない。しかしよく考えてみればこれは鎧といっても小さなパーツを連結させたような形状なので、その連結部分で調整可能なのか。そうなるとパーツだけ作っておけばいいわけで、特に気にすべきは胸の、その、膨らみの大きさくらいのものだろうか。それさえもある程度ゆとりをもたせておきさえすれば問題無い気がする。
 次に木材を取り出す。全部金属にすると重いしコストもかかる。かと言って薄っぺらい鉄板一枚だとすぐに壊れてしまう。肌触りの問題もあるのでベースを木材で作りその表面を鉄板で覆う形にしようと思ったわけだ。
 木材は頑丈とは言えガポチャよりちょっと堅いくらい。素手でどこまで加工できるか、俺のスキルの見せ場だぜ。
 皮を剥いだ丸太のままの木材を、まず丁寧に引き裂いて割る。焦って叩くとバラバラになることもあるから注意が必要だ。
 ぶ厚めの細長い板になった。これを三角形に切り分ける。切れ目を入れたい所を爪で引っかいて削り取ることできれいに割れるようになる。鋸の方がきれいに無駄なくできるけど曲線の加工が難しいし時間がかかりすぎるんだよな。
 板を切り分けた木片を、後はひたすら爪で削るだけだ。優しく削らないとバキバキに粉砕される。仕上げはさすがに鑢を使わないとダメかと思ったが、試しに指の腹で撫でてやるだけで結構なめらかになった。この辺はちゃんとスキルが育っていた結果だろう。
 木製のパーツはこんな感じであっという間にできあがった。しかし、さすがに鉄が相手だと木材と同じようにはいかないのだった。しかし、望みはまだある。言い出しっぺのあいつに相談してみよう。

「こんな感じで土台はできあがっていて、これに鉄板を張り付けたいんだけどその鉄板に苦戦してるんだよな」
 翌日、休憩時間を利用して早速ショウに現物を見せつつ相談してみた。
「おお!?いい感じなんじゃないか?まあ、本人に装着させてみないと何ともいえないんだけど」
「俺たち二人でやっててもその点が問題だよな」
「せっかく本人がいるんだしサイズ合わせも済ませてしまうべきだね」
 鉄板を張り付けるよりも基礎をしっかり作ることを優先すべきだと言うことになった。ひとまず、各パーツをつなぎ合わせて仮に組み立ててみる。そのための金具も取り付けたのだが――。
「調整の時点では革紐でいいけど、サイズが確定したらしっかりとした金具で連結しないとな」
「革紐じゃだめか」
「攻撃で切られたり、直接紐を狙われなくても衝撃を受けて切れたりしたら……ぽろっと外れてぽろりってするぞ。それを目撃できれば眼福ではある。だがそんなことになるちゃちな防具を薦めたぼくたちが嫌われるのは避けられない」
「それは困るな」
「ただでさえなまじの下着より露出が際どいビキニメイルを着せることで好感度は下がるだろう。その分を取り戻すまではスケベは抑えた方が得策だ」
「う。やっぱり下がるか……」
「そりゃあね?しかし好感度を犠牲にしても得られるものは大きい。サラちゃんのセクシーな姿は拝めるし、あくまでもそれはおまけで主な目的はサラちゃんのスキルによるポテンシャルを引き出すためだ!これは避けられないものだと割り切れ。サラちゃんにとってベストな防具であることが理解されれば好感度は爆上がりだ!多分!」
 ショウのことだからおまけと主な目的はもちろん逆だよな。俺?俺は違うに決まってる。違うってば。
「まあ、そうだな。サラちゃんが怪我をするところは見たくない」
 そして素肌はできれば見たい。言わないけどな。言わずもがなだし。
 そんなわけで、革紐はサイズ調整が終わるまでの仮止めと言うことになった。そしてサイズの調整は本人の試着が必要だ。満を持してサラちゃんにお披露目である。
「ちょっ。なんて物作ってるんですか。こ、これを着ろと?今ここで!?」
「今はひとまずサイズとか位置関係とかが確認できればいいから服の上から当てるだけでいいよ。まあ、いずれは直接つけてもらって微調整しなきゃならないけどね。だから今のうちに実際のように装着して慣れてもらってもいいんだけれど」
「ちゃんと調整が終わってからにしておきます」
 今さりげなく、着るか着ないかの二択から服の上か素肌に直かの二択にして着ない道を消したよな。
「どこで売ってたんです、こんなの……」
「トッシュ君の手作りだよ。一晩で作ってくれたんだ」
 やめろ、俺がめちゃめちゃ気合い入ってるみたいに聞こえるだろ。
「うえっ……。器用ですね……」
「昔職人だったし、今はスキルの使い方にも馴れてるからね。木材なら手だけでかなり自由な加工ができるよ。ちなみにアイディアとかデザインとかはショウだから」
「それはちょっと違うな。ぼくは先人が生み出し改変を積み重ねていったデザインを再現したまでさ」
 責任の所在を押しつけあい、結局俺とショウとショウの世界における歴代の同好の徒で分け合うことになった。実行犯は俺なんだけどね。
「……つまりこれ、トッシュさんが手でいじり回して作ったんですよね」
「……だ、駄目かな?」
「駄目ってことはないですけど、ちょっと着けづらいなあ……」
「気付かなくていいことに気付いてしまったせいだね。でも最終的な調整には着けたままトッシュ君に触られることになるだろうからこっちの方も今から慣れておかないとね!」
 うわあ、それもそうか!
「ううう。だからこのスキルのことを知られたくなかったんですよう。隠させてくれるだけマシですけど」
 ブツクサ言いながらも律儀に調整してくれるサラちゃん。左右の胸パットの間隔と肩までの高さに合わせて紐を結ぶ。
「折角なら、このまま体型に合わせちゃいたいな」
「しかし、そこまでの準備は整ってないよね」
「鉄板があるんだ、何とかなるだろ。ショウのスキルで鉄板だって加工しやすくなっているはず!」
 俺は鉄板に定規を当て、指一本分くらいの幅に爪で一直線に溝を彫る。端から引っ張ってやるときれいに切り取れた。やっぱりだ、一人でやってたらこんなにうまくはいかない。
「鉄板だよね!?クッキーの生地みたいにまあ……」
 驚く二人のことは気にせず、細長い帯状になった鉄をぐにゃりと曲げてサラちゃんの体型に合わせていく。今回は仮合わせなので大雑把に。
 ついでに木製部品で形が合ってない部分も削り取っていく。爪でがりがりと。
「なるほど、そうやって作ったのか……。粘土細工くらい簡単だな、そりゃあ一晩でできあがるわけだ。スキルやべえな、ものに寄っちゃ戦闘より生活の方が役に立つぞ……。誰もそんなことに使おうとしないけど」
「まあね、俺は結構利用してるしな」
「何にせよ、スキルは戦いに使う物って認識が強すぎて戦い以外に使おうとする人はあまりいないんだよね。魔法だってそうだよ、戦いの役に立たない普段使い向けのオプションが存在してるのみんな知らないし」
 魔法はなあ。戦いに使わないなら高い金を出して魔法石を買おうなんて思わないから無理もない。でもスキルは全員大人になる頃には獲得してるものだ。戦わなくても活用できればいいのにと思う。確かに、魔物と戦う手段として神が人に与えた物がスキルだと言われているので戦い以外に使おうと考える人が少ないのは仕方ない。
 俺の場合は素手で何かしようとすると発動してしまう、使うために準備もいらないがその分暴発させがちなスキルだったからこそ、暴発を押さえる一方でうまい使い方も模索するようになった。使いたくもないのに使ってしまうくらいなら、使いたいと思えるときに使えるようにだ。
「私ですか。スキルを使ってたつもりはないですけど……。肌が出てるところにダメージを受けたら発動するなら、うっかり手をとか、転んだりぶつけたりとか、虫に刺され犬に咬まれ……発動するタイミングっていくらでもありましたね」
 サラちゃんは意識もせずにスキル使いまくってたな、こりゃ。
 ショウというかアルは魔法すら隠された仕様を暴き出すほどに使いまくっていたが、その魔法を使うのはスキル頼み。当然スキルも使いまくりだろう。ちなみにショウのスキルはと言うと。
「ぼくの意志と関係ないよね、もう。トッシュ君やサラちゃんがスキル発動させると連動だし。自覚はないけど、今だってバリバリ発動してるんだろうね」
 俺がスキルを駆使して工作しまくってるからな。喋っている間にも鉄板の切り出しは終わった。木製部品に押し当てて掌や指先でぽんぽんと叩くと木製部品の形に合わせて鉄板が曲がっていく。大事な点は木製部分を持つ手に手袋をはめることだ。これによりスキルを封じて木製部品の破損を防げる。
「人間プレス機だ……」
 ショウの合いの手はよく解らないし無視。鉄板の成形が終わったらまずはボルトのような鋲を使ってそれらを連結。ナットはいらない。ボルトの先っぽを指で押して潰してやればもう絶対に抜けない。木製部品も同じように取り付けていく。
 たまにサラちゃんに当ててもらって微調整しつつ、どんどん仕上げていった。
「ショウのスキルのおかげだよ、本当にすごいな!」
「ぼく、なにもしてないよ……。ぼくのせいにしないで、トッシュ君のスキルもやばいんだよ」
「でも私が火の玉を素手で掴めるのも、普通2・3発で死ぬ攻撃をノーダメージで跳ね返せるのもショウさんのおかげだと思うんですよね」
「ぼくって化け物製造機!?」
 化け物とは失礼な。でも、客観的かつ冷静に考えると否定はできないんだよね。サラちゃんに関しては自分が化け物みたいになってることを認めた上でその責任をショウにすり付けようという魂胆のある発言だったと思う。いや、ショウが仲間になる前から結構なものだったと思うよ?俺もだとは思うけど。
 でもまあ、ショウも何もしてないようで相当ヤバいのは間違いないと思う。だって自分だけじゃさすがに難しいと思っていた鉄の加工が飴細工みたいだし。
 こうしてビキニメイルのパーツはだいぶ形になった。後はしっかりと組み立てて微調整だけすれば使ってもらえる……はずだ。後はサラちゃん次第だな。
「工作できるなら、材料の木材はこっちで仕入れてくるからちょっと作って欲しいものがあるんだけど。いいかな」
「いいけど。どんなものだ」
「そうだなあ……。こんな感じで頼む。組立くらいはこっちでやるからパーツの作成だけしてくれればいい」
 提示されたのは掌大の板と、指くらいの木片。シンプルな直方体だけで、サイズも大体の不揃いなものでいいらしいし一つ一つは簡単だがとにかく数が多い。板一枚に木片6か8くらいでそれが大量に要るらしい。
「何に使うんだ、こんなの」
「ぼくの夜の仕事が大繁盛でね……ちょっとでも楽をしたいんだよ」
「夜の仕事って、皿洗いか」
「もっと遅い奴。寝てるだけの楽な仕事って奴だけど、お客さんが多すぎて寝不足なんだよね」
 誰もいなくなった店で見張りがてら寝てるだけ。楽そうに見えてほぼ毎晩泥棒らしい何者かがやってきて気が休まらないそうだ。
 この店はだいぶ前から泥棒が多くて、窓には鉄の鎧戸とかドアの錠も複雑なものを複数などセキュリティは厳重だ。大部分のこそ泥は錠前に手こずっているところを巡回兵に見つかるか諦めて退散する。残りの一部は錠前と鎧戸を見た瞬間に心が折れて引き下がる。売り上げは毎晩店長が回収するので店に忍び込んでも食器か調理器具くらいしか盗めるものなどないしな。
 それでも念のためにとショウが雇われたわけだが……予想以上にとんでもない状況になっているみたいだな。この板と木片は泥棒除けのグッズを作るためだとか。こんな部品でどうやって泥棒を避けるのかよくわからないけど、まあいいや。

 いよいよ、定休日前日。まさかと思ってはいたが、ビキニメイルがこの日に間に合ってしまった。今夜の魔物狩りは店長も参加でそれも楽しみなのだが、さすがにビキニメイルのサラちゃんにはかないませんな。
 思ったよりも微調整も不要だったようで、着用した状態で手を加える必要はなかった。と言うことで、着用した姿は今夜が初披露となる。
 もちろんその姿で町の外を目指したりはしないがかといって戦闘前に生着替えするわけでもない。町にいる間はマントのようなものを羽織ることにしたらしい。ようなもの、というのはちゃんとしたマントなんて持ってないのでただの布だ。この布の羽織り方でも一悶着あった。サラちゃんとしてはできるだけ下半身も隠したいので胸の高さに巻いたのだが。
「お風呂上がりのバスタオルみたいだな」
 なまじビキニメイルの要素が隠されてしまっている分、タオルの下は全裸感が出てしまうという指摘だ。隠すことでイマジネーションを掻き立ててしまうのである。しかもその巻き方が普通なら裸の上に巻くときのおなじみのスタイルなので――。
「変な想像されるくらいなら見せた方がましですっ」
 そんなわけでマントみたいに肩に掛けるスタイルに落ち着いた。それでは確かに変な想像をする余地はない。まあその、想像するまでもなく、その。たまらないです。当然肝心な部分は隠れているけど、肝心でない部分は丸出しといっても過言ではない。
 何でこんな時に主役の当番が俺なんだろうな、感想が筒抜けじゃないか。いや、逆に考えるんだ。ショウが主役になってたりしたら遠慮も容赦もなくサラちゃんを見た感想や描写を垂れ流していたかも知れない。自重できる俺の時にこんな出来事が起きていることには意味があるに決まっているんだ。だから俺の目に映るこの素晴らしき姿もそれに抱く感想もすべて俺の胸に秘めておく。ただ一言、羽織る布を脱ぎ捨てるその時が待ち遠しくて仕方がないよ。
 おっと、それはそうと。
「戦いの役に立つんじゃないかと思ってこんなものを用意してみたんだ」
 それは、ちょっと大きめの桶だ。
「さすがトッシュさん!これはいいかも!」
「ウォーターの水が無駄にならなくていいね」
 理解できる二人には好評だが、店長は首をひねっているな。まあ無理もないか。普通の戦い方じゃこんなものに出番なんかないだろうし。
「いや、しかしまあ。何をしに行く集団なのかわからないな」
 使い道の解らない桶、フライパンを持った半裸の女性普段着の男たち。ちなみに店長の武器は使い古されたまな板だ。フライパン同様平面で扇ぐようにぶっ叩くことを意識した武器と言えよう。って言うか武器と言っていいのか。より野外で調理感が増大している。
「その話題ならぼくらが先週すでにしてますよ。とは言えその時のサラちゃんはまだ夜遊び娘くらいの感じでしたけど、この格好はさすがにヤバイっすわ。犯罪に巻き込まれてる感じが……」
「自分で着せといて何を言うんですか。半分は私の安全をおもんぱかってのことだってのはわかってるから、残り半分の下心に我慢してつきあってあげててるんですからね」
「ごちそうさまです。……しかし、この格好で町を歩き回るのも考え物だし、マントくらいは調達しておいた方がいいね。もちろんぼくらのおごりで」
 そんな話をしながら、町の出口に到着。サラちゃんのビキニメイルもついに全貌が明かされ俺たちはそれを堪能――している場合じゃなかった。
「出待ちかよ!探しに行く手間がなくっていいけどさあ!」
 ショウの言葉通り、町の外にはゴーストとウィスプ2が待ちかまえていたのだ。
 即座に臨戦態勢だ。サラちゃんが羽織ってた布を投げ捨てる。後ろ姿は前より隠れてるところが少ないので本当に裸みたいだ。前も是非見たいところだがそんな余裕はない。それどころか後ろ姿を眺めている余裕すらあったもんじゃないぞ。
 既にサラちゃんは魔物の群に突っ込んでいる。ウィスプのタックルとゴーストのウィンドカッターをノーガードで受け止めつつ、ゴーストにフライパンアタックを一発。
「うひょー!恥ずかしい思いするだけの価値はあるかも!攻撃が全然痛くない!」
 半裸のやけくそも加わってかサラちゃんのテンションはやたら高い。
 俺もゴーストにビンタ!普通ならウィスプを先に退治してその間にウィンドカッターを撃ち尽くしたゴーストをじっくりやっつけるのだが、武装からして見るからに変則的な我がパーティだけに戦略も変則的なのを店長も察したようで真っ先にゴーストを攻撃してくれた。
「ブラスト!」
 使ったのは攻撃特化の風魔法だ。ゴーストもウィスプも風には弱いのでウィンドでもまあまあダメージがでるがやっぱりこっちの方が強い。ウィンドはウィンドで効果範囲が広いのでゴーストとウィスプメインの夜の平原では便利だが、一体一体を倒すのに時間はかかってしまう。――と言うようなことを後でショウが教えてくれた。ゴーストはその一撃で雲散霧消する。
「さすがベテラン冒険者ですね、強っ」
 素直な感想を漏らすが。
「いや、ここまでにしっかりダメージが入ってるからこそだよ。こんなに早く倒せるとは驚きだ、レベル2とは思えないね」
「滅茶苦茶でしょ、この人たち」
「私たちだってショウさんのスキルがないとここまで滅茶苦茶じゃありませんからね?」
 そうだよな。で、ここからがいよいよ滅茶苦茶だ。店長にとって謎である桶の出番だ。店長のおかげでゴーストの相手に出番が回ってこなかったショウが桶に向かってウォーターをぶっ放し、なみなみと水を張った。フライパンに溜めた場合、魔法で出された水の半分くらいは溢れていたし、フライパンからもすぐにこぼれてしまっていた。しかし桶なら無駄な水が出ない。
 しかもメリットはそれだけじゃなかった。いっそ盲点だったのだが――サラちゃんは前回対ウィスプの最終兵器だったフライパンを、あろう事かその場に投げ捨てた。
 水を溜めるのに使ったフライパンだが、今回水はすでに桶に溜まっている。正直なところ、桶に水を溜めてそこからフライパンですくうみたいな使い方を想定して大きい桶にしたのだが、桶がそこにあるならフライパンを使うまでもなく桶にウィスプをぶち込めばよい。
 両手がフリーになったサラちゃんはそれぞれの手に一匹ずつウィスプを握りしめて、すたすたと桶に歩み寄り――。
 じゅっじゅう。
 戦闘終了の合図の音が響いた。
 素手とは言え、パンチやビンタなど攻撃らしい行動をとって敵にダメージを与えている俺は傍目に見てまだ割と普通に戦ってると思う。でもサラちゃんの戦い方はかなり異常だ。致命傷になりかねない攻撃をも半裸で跳ね返し、火の玉を手掴みにする。この戦い方は他人に見せていいものではないだろう。戦い方以前にこの格好を他の人に見せられないけど。

 次の戦いの前に考えることはいろいろある。一番考えないといけないのは桶の扱いだ。水がもったいないのでここに置いたまま次の敵を探し、ここまで連れてくるか。それとも桶を運ぶか。
 とは言えひとまず今回はそれには及ばない。何せ次の敵がもう近付いてきているからだ。またこの場所で戦える。さっきの戦いでもダメージはないし連戦も問題はない。そして敵はウィスプ2匹、ゴーストはいない。俺の出番はなさそうだ。
「ウィスプの後ろにスケルトン発見!」
 おっと、これは俺の出番だな。両手に火の玉を握りしめたサラちゃんとすれ違い戦いの場に赴く。
 ゴーストのウィンドカッターほどじゃないとは言えスケルトンの引っかきも当たると痛い。しかしそれは当たればのこと。サラちゃんにかばってもらうまでもなく先手必勝で倒してしまえば何の問題もない。一撃で粉みじんだ!
「なにいいいぃ!」
 店長が驚いてるが気にしない。と言うかそれどころじゃないな。
「ゴーストが接近中!」
 すっごく痛いの撃ってくる敵が来た!あれはサラちゃんじゃないと凌げない。生き延びられるかどうかで言えば問題はないのだろうが、あの痛みは心が折れるのだ。
 サラちゃんも自分のすべきことは理解している。すっと前に出てウィンドカッターを受け止めた。俺もこの隙に安心して一撃を浴びせられる。その俺の横を店長のブラストが飛んでいく。ブラストで揺らめくゴーストにビンタをお見舞い!
「いやああ!ゾンビ来たああ!」
 サラちゃんが逃げ出す。あれは俺も嫌いだ。
「あっ!こっちからウィスプ!いいこと思いついた!」
 サラちゃんはウィスプ二匹を掴むと、ゾンビに向かって疾走しウィスプを投げつけた。まさかのウィスプで攻撃かよ!怒ったウィスプがまたサラちゃんに向かっていくが、捕まりに行くようなものである。何度もウィスプをぶつけられてゾンビは焼け死んだ。元々死んでるけど。用済みのウィスプは消火された。俺どころか店長の出番すらなかったな。
「ゾンビは初討伐だな!……って喜んでる場合じゃないな、ゴースト来てる」
「多くない!?あと、その割にぼくの出番無くない!?」
 そう言えばショウはさっきから何もしてないな。ウィスプ用のウォーターは桶に溜めた分で当分持ちそうだし、ヒールも鉄壁のサラちゃんが攻撃をすべて無効化するから怪我人がでない。
「これだけ楽に戦えているのはショウさんのスキルのおかげですよ。いるだけで役に立ってますって!」
 ショウがいなければここまで化け物になってないという裏メッセージが込められたサラちゃんのねぎらいだった。
「ヒールってさ……疲労には効かないの?」
「効かないね」
「効かないな」
 ショウと店長の二人が言うなら間違いなかった。
「出番が欲しいならこれを貸そうか」
 まな板を差し出す店長。
「まさかの物理……でもいないよりはマシっすね」
 まな板を手にショウがゴースト殴りに参加した。少しは早く倒せるように……なったかどうかはわからない。
「ところで、私のスキルなんだがね」
「今する話ですかね、それ」
「苦戦しているようでもないし、いいだろう?それにこの状況は恐らくスキルが招いてるんだよ」
「と言いますと?」
「私のスキルは『呼び寄せスキル』と言う。効果は『いろいろと呼び寄せる』というものだ」
「いろいろって、ふわっとした説明ですね。具体的には何を呼ぶんです?」
「まさに今の状況の通り、魔物は呼び寄せられるね。あと店にお客も呼ぶし人手が欲しければ働き手も寄ってくる」
「ぼくも呼び寄せられてたんすか!」
「まあ、そんな気がするってだけで本当にそうかはわからないがね。でも魔物を呼び寄せるのは間違いないよ。私が冒険者になったのもこのスキルで魔物が寄ってきてレベル上げが早くなると誘われたのがきっかけだ」
 という話をしている間にもゴーストはとっくに消滅、ウィスプ2が来たがあっちの方にゾンビが見えたのでサラちゃんがキープしつつ――何だよキープって――今はスケルトンを叩いているところだ。ちなみにスケルトンは縦長で粉砕しやすい魔物なので、頭頂部からチョップを浴びせてやると気持ちよく倒せる。
「なるほど、確かにタワーディフェンスみたいな勢いで魔物が波状攻撃掛けてきてますもんね。あ、タワーディフェンスはぼくしかわからないか」
「それにしても今日は異常なほど魔物が寄ってくるね。どうなってるんだろう」
「ああそれは確実にぼくのスキルがいたずらしてますわ」
 暇そうな二人が雑談していたが、ゾンビが寄ってきたところでショウがまな板片手に参戦した。まな板を縦にして脳天に一撃振り下ろす。衝撃でゾンビの首がもげた。キモい。それで露骨に動きが鈍くなったゾンビはサラちゃんの投げウィスプの格好の的だった。
「店長。ショウが使ってるまな板って、料理に使ったりしませんよね?」
「ああ。すり減ったり反り返ったりしてもう使えなくなった奴を、何かに使えるかもととっておいただけだからね」
 安心した。好きなだけゾンビを叩けばいいと思う。
 次に現れた魔物は珍しい魔物だった。ホーンラビット、名前通り額に角の生えたウサギだ。
「わ。何ですこれ、かわいい!これも魔物なんですか?」
 その質問に答えたのはショウだった。
「そうだよ。なかなか遭遇しないし、すぐに逃げるメタルスライム的な――いや分からんか。まあ倒しにくい魔物だけどだからといって経験値的においしい訳じゃない」
「しかしモンスタークリスタルは珍品だし、肉も毛皮も利用できて色んな意味でおいしい魔物だ」
 サラちゃんはおいでと言う感じに手を開いて差し出ししゃがみ込んで待ち受けていた。お望み通りホーンラビットはその胸元めがけて飛び込んできた。いや、めがけたのは喉元でその角で一突きにしようとしてきた。かわいいなりで結構とんでもない奴だった。
 がいんぐきょ。
 サラちゃんの喉に突き立った角はあっさり跳ね返され、首を捻ったホーンラビットは意識を失い痙攣している。誰も何もしてないのにホーンラビットは倒された。サラちゃんが普通の人間だったら今のでやられて死んでいたんだろう。あ、いや。サラちゃんもスキルがちょっと変わってるだけの普通の人間だよ。

 その後も魔物は絶え間なくやってきた。
「レベルアップだ!」
 俺がレベルアップし、さらに少し経つと。
「私もレベル3です!」
 普通なら安全のため、そしてちょっとビビって強めの敵にはいかずスライムゴブリンをこつこつ倒すので、レベル2から3までは一年くらいかかることが多いそうだが、あっという間に駆け抜けてしまった。異常なペースと言えよう。
 これで魔物を倒すのもいくらかは楽になるんだろうか。そう思ったのも束の間。
「寄ってくる魔物、増えてません!?」
「ああ、うん。私の経験から推測する呼び寄せスキルで呼び寄せられる魔物についてなんだが、今のメンバーで安全に倒せる程度って言う感じなんだよね。レベルが上がったことで安全に倒せる出現ペースが引き上げられたんじゃないかな」
「安全に倒せても、疲れるんですけど!」
「それはまあ、そうだよね」
 さすがに店長も参戦してくれた。ショウはまな板を店長に返却。代わりにウォーターの乱舞で攻撃する。一番使うべきウィスプについては桶戦法があまりにもはまりすぎてるので使う相手はゴーストくらいだ。
 倒しなれた魔物との変わり映えのない戦闘の中、今日二匹目のホーンラビットが現れた。さっきのは攻撃的だったが今度のは近付いてきたと思ったらすぐに逃げ出した。
「逃げるなっ!ええいサンダー!」
 夜の闇を電光が切り裂く。稲妻はホーンラビットに直撃しホーンラビットは倒れた。なんかこいつらは無様な死に様が多くてちょっとかわいそうに思えるな。今回は逃げようとしてたくらいで本当に何もしてないし。っっていうか、ショウはこんな魔法も使えたのか。
「え。何で今魔法出たの?あれ?」
 いや。ショウもびっくりしてるな。いきなり雷が鳴ったので俺とサラちゃんもびっくりしたけど。その後、ショウはサンダーとかファイアとか唱えていたがその魔法が出ることはなかった。
 そして、それどころじゃないくらいの魔物が群がってきていた。そんな中。
「それじゃ、私は一足先に切り上げようと思う。後は適当にやってくれ」
 そう言い残して店長がいなくなってしまった。
「え。この状況でですか!」
「なるほど。トシだから夜遅いのには弱いんだ!」
 まな板を再び託されたショウが失礼なことを言った。
 だがもちろん、その真意は別にあったのである。迫り来る魔物たちを必死に捌いていると、魔物がぱったりと来なくなったのだ。店長の呼び寄せスキルの効果がなくなったせいだった。
「……うん。普通はこうだよね。自分から探しに行ってもなかなか魔物に出会えない感じ」
「今夜はお開きですね……やっとって感じがします」
「どれだけ呼び寄せたんだ、店長のスキルは……」
 ようやく一息という状況で、サラちゃんは桶のお湯を見つめた。そして、体を桶に投げ入れる。
「おっふろー♪……ってぎゃあああ!」
 飛び上がって悶えるサラちゃん。
「言えないところが!ダメなところにダメージが!」
 鎧でガードされているところが熱さに弱いらしい。ショウはお湯の温度を確認しようと水面に手を伸ばす。――が、直前で手を止めた。触っちゃいけないと判断した模様。
「足は大丈夫なんでしょ、桶の中に立って。ウォーターを浴びせてお湯ごと冷やすよ」
「はいぃ……」
 水をぶっかけると少し落ち着いたらしい。ショウがもう一度温度を確認し、ウォーターを追加した。どれだけ熱くなっていたのやら。
 なお、どうでもいいがこの時のダメージは鎧の隙間に入り込んだお湯ではなく、鎧の上から浸透してきた熱が原因だったらしい。服の中に入り込んできて素肌に触れた物からは守られるが、服の上から刺さった棘は痛いのと同じ原理だった。そのため、鎧から伝わる熱さでお湯から飛び出し鎧に熱が加わらなくなった時点でダメージは受けなくなったそうだ。
 サラちゃんのお風呂タイムの間、戦っている間はおろそかになっていたドロップアイテムの回収。一ヶ所で戦い続けたので拾い集める範囲も広くない。
「すみません、手伝わずお風呂入ってて……」
 申し訳なさそうなサラちゃん。桶の周りで戦っていたからどうしても桶のそばで拾い集めることになり、忙しそうにしている俺たちが気になってしまう模様。
「気にしないでよ、大活躍だったんだしさ」
「でも。ショウさんはともかくトッシュさんだって活躍したのに……」
「おいおい、ショウだってそのウォーターで貢献してるし、そのスキルのおかげで俺たちが大暴れできてるんだぜ。陰で十分活躍してるじゃないか」
 そもそもサラちゃんにビキニメイルを着せるという功績だけでMVPだけどな。
「表だった出番がないのは僕も自覚してるけどね……。もっと使える魔法を増やしたいな。……って言うか、このペースでウィスプのクリスタルが手に入ればコア持ち込みで魔法石生成してもらえるよな」
 モンスタークリスタルは魔法石の材料になるが、必要な数を魔法屋に直接持ち込めば一旦買い取ってもらって改めて魔法石を購入するより安く済んだり、他の人に買われたり予約販売で長いこと順番待ちになったりもしないらしい。特にファイアはこの辺りでは稀少かつ人気なので店頭には滅多に店頭には出ないだろうとのこと。
「ファイアって、『革と炎』のアホウ……魔法使いも使えましたよね」
 サラちゃん、ちょっと言葉を噛んだかな?
「うん。チーム名に炎を入れるくらいだから火の魔法は彼らの象徴みたいだし」
「買ったにせよクリスタルをためて作ってもらったにせよ、大したもんだね」
「そんなにすごいんですか、ファイアって。それで、ショウさんもファイア覚えられそうですか」
「攻撃魔法としては優秀だね。日常生活にもいろいろ使えるけど、延焼抑制制御オプションは欲しいかな。僕はその点抜かりないけど」
「なんです、それ」
「ファイアの魔法って、普通発動が終わると火が消えるじゃない」
「そう言えばそうですね。あh……の魔法使いが店内で魔法を使ったときもテーブルとかは無事でしたし」
「ファイアは言ってみれば狙った物を燃やすんじゃなくて焼く魔法なんだよ。でも、延焼抑制を切れば燃やせる。キャンプとかでとても便利になるんだよ。もちろん、取り扱いに気をつけないと火事が起こるわけだね。だからか最初はご親切に延焼しなくなってるわけ。で、覚えられるかどうかだけど……。この調子でウィスプのクリスタルが集められればそんなに掛からず覚えられそうだね」
「おおっ。いいですね、がんばって覚えましょう!私たちも協力しますよ!そして……あいつを超えてやるんです!」
 あいつって、『革と炎』の魔法使いかな?何でこんなにライバル視しているのか解らないんだけど、まあなんかやる気なのはよく解った。頑張れば俺たちなら彼らでも超えられそうな気はするしね。
 そして、サラちゃんはサラっと"私たち"と言うことにして俺を巻き込んでいた。俺はクリスタルを売ってお金にしたいんだけど……。まあ、いいか。