Superstar 01.Don't be so serious  Minkは相変わらずドラマに歌にと大忙しだ。  そう、Minkはまた新しいドラマへの出演が決まったのだ。  「Eternal love stories」。いくつものストーリーが紡ぎ出す一本のラブストーリー。  そんな作品なので主演と言ってもMinkのシーンはそれほど多くはない。とは言え、やはりMinkのスケジュールはかなりキツくなった。  一方、真帆子と叶花の二人はだいぶ気楽になった。Minkleとしての活動はMink個人の忙しさに反比例して減っていく。  なので、真帆子はMacoとしてではなく真帆子としてMinkにくっついて行動している。  今日はMinkのアルバム収録曲のレコーディングだ。  当然、イリヤプロデュース。真帆子はただの一ファンとして、それでもMinkのマネージャーの妹という特権で堂々とそのレコーディングに立ち会えるというちょっと優位に立った立場でここにいる。  叶花は叶花でくっついてきているのだが、収録中はMinkそっちのけでネットにつないでいる。何しに来ているのか疑問だが、それは真帆子だって人のことは言えないのだ。何せ、Minkそっちのけでイリヤばかり見ているのだから。  しかし、そんな真帆子だから気付いたのだ。いや、Minkも気付いている。 「お疲れ!」  今日のレコーディングはこれで終了。今までの張りつめた雰囲気が一気に解れる。  素晴もMinkの背中をにこやかに叩いた。それでもMinkの表情は冴えない。素晴にもその原因は分かっている。それがMinkにあるなら力になってやることも出来ただろう。  Minkの表情が冴えない理由はイリヤにあった。イリヤはここしばらく何かに思い悩んでいるようだ。そんなイリヤを気遣い、Minkもあまりイリヤの前では明るく振る舞えないのだ。  イリヤはイリヤでそんなMinkに心配をかけまいと必死に明るく振る舞おうとしている。見え見えだというのに。それが却って痛々しいのだ。  足早に去っていくイリヤを、Minkも今日は横で見守るだけの真帆子も心配そうに見送った。 「どうしちゃったんだろ、イリヤ君」 「だよねー。なんかあったのかな」  顔を見合わせるMinkと真帆子。 「え?なんでなんで?」  叶花がそれこそ何かあったのか、と言いたげに口を挟んできた。真帆子が口をとがらせる。 「気付かないの?イリヤの様子。なんか落ち込んでるというか、元気ない」 「そうなの?いつもとあまり変わらないように見えるけどなぁ」 「叶花、あんたニブすぎ」 「なぁんだとぉ!」 「だから男出来ないんだぞ」 「そういう真帆子には男がいるのかと小一時間問いつめたい」 「……心配だな、イリヤ」 「話をそらすなぁっ」  そんな二人のやりとりをよそにMinkはぼそっと呟く。 「どうしちゃったの、イリヤ君……」 「んー、分かるなぁ、イリヤの気持ち〜。デートまでした相手が別な男のところに行っちゃったんだからねぇ〜」 「ぎゃー!」  三人娘はどこからか沸いてきたジョニ田に悲鳴を上げて散った。 「じょ、じょ、ジョニ田!あんたどこから!」 「どこって、そこから」  入り口を指さすジョニ田。 「そんなんじゃありませんから!」  気丈に言い張るMink。そんなMinkをかばうように素晴が二人の間に立ちはだかる。 「お。王子様のご登場だ。さぁすが〜。そこまでしといて今さら二人の仲を否定なんてしないよね?」  にたにたと笑うジョニ田を睨み返して素晴は言い放つ。 「こんなのマネージャーとして当然だ!」 「マネージャーとして、ねぇ。便利な立場だねぇ。その立場なら好きなだけ一緒にいられるもんねぇ〜……。見せつけられるイリヤとしては堪らないよねぇ?」 「イリヤはなんの関係もないもん!」  真帆子の方をちらっと見るジョニ田。その目線に真帆子は寒気を覚え怯む。 「ふふん。今日のところは何ともネタが少なすぎるからね、こんな所にしておきましょ。……だが、このネタは必ずものにする。イリヤとのスキャンダルで潰れなかったこと、後悔させてやるぜ……?くっくっく……」  不気味な笑みを浮かべながらジョニ田は去っていった。残された四人は一様に険しい表情だった。  ジョニ田の登場でますます元気がなくなったMink。だが、それは真帆子とて同じだ。 「ねぇ、イリヤ、本当にどうしちゃったんだろ。ジョニ田の言うとおりなのかな」  考えたくはないが、真帆子は口にする。Minkは俯いたまま答えない。 「ありえないな」  口を挟んできたのは素晴だ。イリヤがそのくらいのことで元気をなくすとは到底思えない。Minkと素晴が仲がいいというのは今までに何度かあった。そのたびイリヤはむしろ敵対心を燃やし、Minkにモーションをかけたり素晴に宣戦布告したりと強気の態度に出てきた。今回に限り落ち込むなんてあり得ない。 「じゃ、なんでー?」  素晴に真帆子は噛みついてくる。 「何でかまでは分からないけどな……。多分、Minkや俺とは関係ないところで何かあったんだろう」 「何かって何よー」 「知るか。……Minkは何か聞いてないか」  首を横に振るMink。 「ねー、Mink。イリヤに何があったのか聞いてみてよ。あんたなら聞けるでしょ」 「う、うん」  Minkは不安げに頷いた。  ドラマにバラエティにと撮影の日がしばらく続き、再びレコーディングの日がやってきた。  Minkはもちろん、真帆子、それに叶花もいつも通りやってくる。 「じゃ、レコーディングが終わったら聞くのよ」 「うん」  Minkはレコーディングに臨む。イリヤは早々とスタジオに来ていた。しかし、やはり元気はない。 「イリヤの件、ちょっとネットで調べてみたんだけどさ」  叶花の言葉に、Minkとイリヤの様子を不安げに見守っていた真帆子が振り向いた。 「ただの怪情報かも知れないけど、JAGUNNAって解散するかもって噂が流れてんのよね」 「ええっ。そんな話あたし聞いてないよ!?」  驚く真帆子。イリヤのことで自分が知らないことがあるという時点でも驚きなのだが、その内容の方がよほど驚きだ。 「だから、一応怪情報かもってこと。どこから出た話なのかも定かじゃないし本当かどうかはもっと怪しいわね」 「でもそんな噂が流れるってことは何か根拠があるんでしょ?」 「根拠と言っても最近の活動の少なさくらいじゃないかな。でも、前からイリヤとリアル・レコードの折り合いはあまりよくなかったみたい。だから人気が翳ってきたら惜しげもなく切り捨てるってのはあるかもね」 「ちょっと、今の聞き捨てならないね」  叶花に詰め寄る真帆子。 「イリヤの人気のどこが翳ってるのよ」 「なんならドラマ視聴率の推移とか、CDの売り上げデータとか、具体的なデータ見せようか」  動じない叶花に、真帆子の方がたじろいだ。 「……う。み、見たくない……」 「なんだかんだ言ってさ、あのジョニ田のスクープが効いてたのよ。Minkの方はどうにかかわしたけど、イリヤの所属しているガイア・プロダクションのイリヤへの態度が変わっちゃったみたい。……これも怪情報かも、だけど」 「……そんなことになってたんだ……」 「返す返すも、ネットの匿名情報だから真偽なんて分からないわよ。Minkのアンチが流したデマかも知れないんだから。この話、突き詰めてくとスキャンダル起こしたMinkが悪いってことになっちゃうでしょ?……真帆子、この事でMinkのこと、嫌いにならないでよ」 「当たり前じゃない。あたし、Minkががんばってるのずっと見てるんだよ?Minkが悪くないのはよく分かってるもん」 「そうよね。安心した。……この事、Minkにはまだ言っちゃダメだよ。あのコ、そんなこと聞いたらヘンに気にしちゃうだろうから」  真帆子は無言で頷く。 「真実は、Minkがイリヤから聞いてくれるまで分からないよね」  真帆子の言葉に今度は叶花が無言で頷いた。  その二人は今まさにレコーディングに打ち込んでいる。全ての悩みも不安も忘れようとするかのように、一心不乱に。 「お疲れ!」  レコーディングは終わった。  イリヤはMinkにそっと微笑みかけた。そして向き直り、あとも見ずに立ち去ろうとする。 「待って」  Minkの声にイリヤが足を止めた。 「イリヤ君、どうしたの?最近元気ない。みんな心配してるよ」  イリヤは振り向きため息を吐いた。 「バレてたか」 「バレバレだよぅ」 「Minkちゃんには何も関係のないことだよ。……気にしないで。気遣わせちゃったみたいでゴメン」  力無い微笑みを浮かべるイリヤ。 「あたしには、どうしても言えないこと?……それに、これ、あたしだけじゃなくて、真帆子ちゃんに頼まれてるの。聞いてきてって」  その真帆子はイリヤとMinkが話している様をじっと見つめている。 「……どうやら、黙ってるわけにもいかないみたいだね。……最近、JAGUNNAのメンバーとうまくいってないんだ」 「えっ、どうして?」  イリヤは目を伏せる。 「ごめん、君にはこれ以上言うことが出来ない……。全部、俺の問題なんだ」 「……どうしても?」 「ああ。すまない」 「もちろん、俺だってこんな問題引きずったままでなんていたくないからね。すぐに片づけてみせるよ。だから……君は何も心配しないで。鳥海の妹さんにも、そう伝えておいてよ」  イリヤはMinkに笑顔を向けた。しかし、見え見えの作り笑いだった。  一人で全てを抱え込んだまま、イリヤは逃げるようにMinkの前から去っていく。  レコーディングルームを出たところで待ちきれない真帆子が話しかけてきた。 「ね、Mink。イリヤはなんて言ってたの?」 「……JAGUNNAのメンバーとうまく行ってないんだって」 「ええっ。メンバーとまで?」  思わず声が大きくなる真帆子。 「まで……?までって、どういうこと?」  慌てて口を押さえる真帆子だが遅すぎる。Minkは真帆子に掴みかからん勢いだ。頭を押さえ、ため息を吐く叶花。  叶花はさっき真帆子に言ったことをMinkにも伝えた。かなり言い方を選んではいるのだが、それでもMinkの顔が強ばっていくのが分かる。 「それって……。あのイリヤ・レーベルのせいってこと?」  ガルーダ・イリヤ・レーベルが立ち消えになったのはイリヤとMinkが会っているところをスクープされ、騒ぎが大きくなってしまったことが原因になっている。 「何も関係ないなんて……嘘じゃない……」  Minkは心を痛めた。慰める言葉もない真帆子に叶花に刺すような視線が否が応でも突き刺さる。  ふぅ、と叶花はまたため息をつく。 「まぁ、こうなったらしょうがないか。この話が本当かどうかもっとよく調べてみる。根拠のないデマなら安心できるし、本当だったら……あたしたちに何が出来るか考えてみようよ」 「うん、そうだね」  Minkは小さく頷く。 「ご、ごめん。あたしがうっかり口を滑らせなければ……」  真帆子は叶花に頭を下げた。 「あんたのうっかりはいつものことだわね。ま、二人ともくよくよしない!」  叶花は二人の背中を叩いた。素晴得意の「ぽん」ではなくバシッと。 「い、いたい……」 「あ、Mink、背中にモミジ……あたしもか。あたた」  とにかく、イリヤの心中を思いまぶたの奧から今にも流れ出しそうになっていた涙はこれで一気に流れ出たのだった。  叶花の肩越しにパソコンの画面に見入る真帆子。その表情は険しい。  二人が見ていたのはネットの中でもアングラと言っていいページだった。  真帆子はあまりインターネットに興味が無く、Minkやイリヤの公式サイト、ファンサイトなどを時々叶花に見せてもらうくらいだった。無難な雑誌に掲載される程度の当たり障りのない情報ばかりを目にしていたわけだ。  しかしここは違う。そう言った情報はもちろん、怪情報や罵詈雑言も飛び交う。ファンもアンチも侃々諤々の論議をしている。いや、むしろ喧嘩をしていると言っていいところだ。  真帆子は今までこういったアンチからの罵詈雑言というのはほとんど目にしたことがなかった。公式サイトもファンサイトもそう言った意見が書き込まれれば速やかに削除してしまう。だからこそ、このような意見がこれほど多く飛び交うのは真帆子にとって驚きだった。  中にはMinkを引き合いに出した書き込みもある。真帆子でさえ見るのが辛いくらいの内容だ。とてもMinkには見せられない。 「あんた、ずっとこんな所見てるの?」  真帆子の言葉に叶花は涼しい顔で頷く。 「世の中にはこういう考えの人もいるってことよ。もちろん、あたしらMinkleのことを書いたところとかもあるけど。見る?」 「や、やめとく。やっぱりぼろくそ書かれてたりする?」 「当然」 「そんなの読んで悔しくないの?」 「悔しいに決まってるでしょ。だからこそ、その意見を反映してちょっとでも自分の活動に役立ててるの」 「うわ、したたか」  真帆子は感心してしまう。  叶花はパソコンを操作しイリヤに関する掲示板を開く。 「こうしてみていると、イリヤのところは荒れてるわね」 「そうね……」  真帆子は深くため息をついた。 「ま、こんな所に書いてあることなんか真に受けることないわよ」 「受けたくないわよ」  そして、この二人の本題と言える内容、プロダクション、そしてレーベルとの確執についての情報も多く見られた。JAGUNNAの内部分裂に関する話題も。  強ちデマとは言い切れない書き方だった。そもそも、ここではその話が周知の事実のようになっている。デマならばすぐに論破され、その話題は立ち消えになってしまうものだ。 「こうしてみてみると、ホントっぽいなぁ……」 「……だね。それにしても悔しいなぁ」 「何が?」 「何が?じゃないわよ。あたし、追っかけとして情報の多さには自信もってたのに、ここにいる人たちの方がよっぽどいろいろなこと知ってるじゃない。あたし、一応イリヤと一緒に仕事までしたことあるってのにさ。なんか、ものすごく負けた気分」 「なるほど、そう言う意味でか。裏事情なんてのは表面的なつきあいだけじゃ分からないからね。まして本人なんか言うわけないし。こういった情報流すのはプロダクションとかレコード会社とか、そう言う内部の人間よ」 「うっそ。自分のところの芸能人の評判下げてどうするのよ」 「評判下げたくてやってるわけじゃないと思うよ。秘密って人に話したくなるもんでしょ?ましてイリヤがプロダクションやレコード会社と仲違いしてるってんなら特に」 「ひどいなぁ……。プロダクションやレーベルはイリヤのこと、信じてないの!?」  真帆子はつい声を荒げた。  ネットで流れている怪しい情報はともかくと言ったところなのだが、実際にかなりややこしいことになっていた。  きっかけがガルーダ・イリヤ・レーベルであったことは間違いない。  これについてレーベル、すなわちリアル・レコードの方と確執が起こるのはやむを得ないことである。リアル・レコードでもこの企画については議論に議論を重ね、ようやく実現に至った企画なのだ。それをスキャンダル一つで潰され、挙げ句、イリヤ本人に『全てはプロモのため』と半ば公表されたことはリアル・レコードとしては裏切りに等しかった。  そして、ガイア・プロダクションとしては、この機に獲得出来ると思っていたMinkを逃したことが大きかった。まして、そのためにバード・ミュージックとも何度も交渉し、突き返されてはいるが大金まで積んだのだ。  イリヤのファンは当然女性が多い。その中にはMinkのプロモーションを始め、Minkとの関わりが深くなってきたことで離れていったファンもいる。ガイア・プロダクションとしては稼ぎ頭と言ってもいいJAGUNNAの人気がそういったいざこざを含めて衰えてきていることもあり、Minkの獲得は社運を賭した試みであった。それに失敗し、挙げ句リアル・レコードの方ともすれ違いを生じさせた今回の出来事はまさに許し難いことだったのだ。  結果として、イリヤ個人、果てはJAGUNNAとしての活動も半ば押さえつけた。それにより、JAGUNNAのメンバーともすれ違いが生じてしまった。  イリヤは業界の中で孤立してしまったのだ。  ただ、イリヤの人気は衰えたとは言えまだまだかなりのものである。才能も確かなものだ。奔放すぎて手におえないが、だからといってあっさりと切り捨てるわけにはいかない。JAGUNNAのメンバーとてバンドの顔でありボーカルであるイリヤ無しでは活動出来ないだろう。  莫大な富と引き替えに厄介ごとも運んでくる、そんな存在になってしまったのだ。  そんな話がネットで当たり前のように流れているのだ。それがジョニー・堀田の耳に届かないはずがない。  ジョニ田にもこの話は早々に流れてきていた。ただ、ジョニー・堀田にとってすでに流れている噂はまったく興味が湧かない。ジョニー・堀田が求めているのは自分だけのスクープだ。だからこそ、狙いを絞った芸能人に徹底的に張り付き、その行動を追い続けるのだ。  今ジョニー・堀田が追っているのはMinkだ。そのための予備知識としてイリヤ絡みの話も押さえておいたにすぎない。  しかし、ジョニー堀田の勘はこの話題にスクープの臭いを感じ取り始めつつあった。  ほぼ総スカンと言ってもいい状態だ。ここから何か起こるのは間違いない。  情報の出所がインターネットのアングラサイトなのが気に食わないらしくマスコミはこの話題はあまり触れたがらない。しかし、虎視眈々と何かが起こるのを待っていることだろう。  タレントつぶしの異名を持つジョニー・堀田は数々のスクープをものにしてきた。それは決してただ待ち続けたり追い求めて手にしたスクープばかりではない。ジョニー・堀田の恐ろしいところはなんと言っても、能動的に動き、スキャンダルを起こすようにし向ける。豊臣秀吉を語る時に引き合いに出される『鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス』という句を彷彿とさせる行動力だ。  Minkの方をつつくのにもそろそろ飽き始めていた。何せなかなか相手はボロを出さない。気分転換に、たまにはイリヤの方でもつついてみるか、と言う気になったのである。  ネットで出回っている情報を総合すると、イリヤはほとんど孤立状態だ。だが、その中でも特にプロダクションとのいざこざが根深い。仕掛けるならここだろう。  ガイア・プロダクション。当時は人気の高校生インディーズバンドだったJAGUNNAにいち早く目をつけスカウトした会社だ。バンド関係を中心として多くのタレントを抱えている。それだけに、レーベルとの関係は切っても切れない。プロダクションはこれ以上リアル・レコードとの溝を広げることを恐れている。  当のリアル・レコードとイリヤの関係は辛うじて徐々に修復される方向にある。この辺はプロデュースしているMinkのCDの売れ行きなども助けになっているようだ。この流れを変えてさらにリアル・レコードとの溝を広げられないか。  MinkのCDの売り上げでよりを戻しつつあるならMinkのCDの売り上げを落とせばいいのだが、それはやはり難しいだろう。それが出来ない故の気分転換なのだから。  テレビ局に忍び込み、音楽番組に出演するJAGUNNAの様子を物陰でこっそりと見守るジョニー・堀田。  バンドの演奏に合わせ熱唱するイリヤ。いつもと何ら変わらない。しかし、バンドとヴォーカルの間にはわずかな不協和音が入り込んでいる。ジョニー・堀田の耳にそう聞こえるだけなのかも知れない。  演奏が終わり、MCとのトークが始まる。楽しげに、台本通りのトークをするJAGUNNAのメンバーたち。  次のアーティストが出てきて、JAGUNNAはスタジオの端のパイプ椅子に腰掛けた。  何やら語り合うメンバーの輪から一人離れ黙り込んでいるイリヤ。この様子から見るとメンバーとの確執は間違いなくありそうだ。  収録終了後。メンバーから離れた所を一人歩くイリヤのあとをこっそりつけるジョニー・堀田の姿があった。  メンバーもバラバラになり、イリヤは一人になる。このときを待っていた。 「よう、元気にやってるかい」  ジョニー・堀田はイリヤの前に立ちはだかるように姿を現した。手を振るジョニー・堀田の横を表情も変えずに通り過ぎるイリヤ。 「つれないねぇ、いつもみたいになんか面白いリアクションしてよぉ〜」  ギャルにつきまとう変態オヤジのようにイリヤに絡むジョニー・堀田。 「なんの用ですか、ジョニ田さん」  イリヤは相変わらず素っ気ない。足を止めることも顔を向けることもしない。 「君、最近暗くない?」 「そう?オフの時はこんなモンですよ」 「Minkちゃんに振られちゃったから?」 「なんのことです?」 「関係ないって言い方だねぇ」 「そうでしょ、だって関係ないですし」 「あれー。そんなこと言っちゃっていいのぉ?Minkちゃんに言っちゃうよ?」  イリヤは足を止めた。ジョニー・堀田はイリヤにぶつかりそうになり慌ててよけた。その結果、突っ込んできたおばちゃんの自転車に轢かれた。前輪と後輪で計二回、足を踏まれた。しばらく痛みで声が出なかった。そのおかげでおばちゃんは何もなかったかのように雑踏に消え去っていた。  そんな出来事などまったく気にせず、イリヤは呟く。 「俺は別に何を言われてもかまわない。でも、彼女を傷つけるようなことは言わないでくれ」 「んあ?あんたにしちゃずいぶん弱気だな。それに比べて今のババァはなんだ……っくおおお〜」 「もう、俺はこれ以上誰にも迷惑をかけたくないんだ……」  そういうと、イリヤは再び歩き始めた。ジョニー・堀田はその背中を目で見送る。 「ホントにらしくねぇなぁ」  そう呟きながら立ち上がり、足を引きずりながら歩き始めた。 「なぁ、お嬢さんよ」 「何よ」  ジョニー・堀田の呼びかけに愛純は素っ気なく返す。 「一昨日イリヤと話したんだけどさ。ありゃあ……」  ジョニー・堀田はそこで言葉を切る。 「何よ。もったいぶらずに言いなさいよ」  愛純の言葉を気にするでもなく、寄りかかっていた椅子の背もたれに、体を反転させて腕と顎を載せ、煙草に火をつけくゆらせ始めるジョニー・堀田。 「あんた、もしかしてあたしのこと挑発してるんじゃないでしょうね」 「んー。そんなことないよ〜。俺はあんたに挑発して欲しいなぁ」  愛純は灰皿を投げつけた。ジョニー・堀田の顔面を正確に狙っていたが、あいにくそれはあっさりと受け止められた。煙を吐き出し、その灰皿に灰を落とし、ようやくジョニー・堀田は続きを切り出した。 「ありゃあ、相当参ってるなぁ。周りは敵ばかりだし、Minkたちに火の粉が掛かるのを恐れて心を閉ざしてるみたいだ」 「……あのイリヤがね……。想像もつかないわ」  愛純は窓に歩み寄りブラインド越しに空を見つめながら呟いた。 「だろうな。俺も別人じゃないかとまで思ったぜ?……なぁ、こんな時こそあんたの出番じゃないの?」 「出番?」 「分かんない?周りは敵だらけ、少ない味方のMinkたちには巻き込みたくない、と。でも、門外漢のあんたならちょっとは頼りにしてもらえるんじゃない?この機にイリヤ、取り戻してみたら?」 「なるほど……ね。うまく行くかしら?」 「うまく行かなくてもマイナスになることなんか特にないだろ?やっちゃえやっちゃえ」 「うーん。そうね、やってみるわ」  力強く頷く愛純。その様を涼しい目で見るジョニー・堀田の心の中には策略が秘められていた。 あとがき  真帆子ちゃんとイリヤの話なのにジョニ田とあずみんばかり出てくるのはどういう事ですか。  やっぱり何か仕掛けるのはこの二人なのよね……。  イリヤがいきなり微妙な立場に立たされてます。この辺の話を書くためにちょっと芸能界について調べてみたんですが、わけわからん業界ですな、あそこは。理解するにはもう少し時間がかかりそうです。  あと、どうでもいいけどガイアプロダクションって本当にあるのね……。ものすごく方向性の違う会社だけど。(詳しくはググるべし)  次回はもう少し真帆子ちゃん出せると思います。出せるといいなぁ。前向きに対処させて頂きます。